2009.03.09
五人の醸し人の話
二〇〇七年、五人の醸し人(かもしびと)が集まった。共に英知を結集すれば日本を代表する旨い味噌が造れるのではないかとの熱い思いからだ。幸い瀬戸内の温暖な気候は味噌造りにおいて他所よりも恵まれている。こういう企画は大手味噌工場では決して実現しない話だが、小規模工場ゆえ可能な話である。そもそも同業者が各自の手の内(技術)を明かすなどありえない話だ。普段より成功談も失敗談も全て語り合っている仲だからこそ成し得たと考える。五人とも頑固者ゆえ、喧々諤々議論伯仲しなかなか結論に至らなかったが、旨い味噌への思いの方向は同じだったので、最終的には地元の原料にこだわり、じっくりゆっくりと天然醸造で仕込む事となった。
選びぬいた原材料は米は岡山県産「朝日」。酒造好適米としても有名で、心白が大きく甘みが強い。食べても美味しく、岡山では主要銘柄である。うま味を出すため胚芽を残す低精白とした。大豆は兵庫県産「夢さよう」。収穫は少ないが別名「もち大豆」と呼ばれる甘みも強く粘り気のある大豆である。もちろん選んだのはその中でも大粒のものだ。塩は徳島県産「鳴門のうず塩」。ミネラルをたっぷりと含んだ塩だ。
いよいよ二〇〇八年六月十三日、五人は芦屋の六甲みその工場に集まり仕込みを行った。味噌の味は土地に根ざしたものだ。そのため瀬戸内の気候風土に合う旨さと甘さのバランスを考慮し、糀歩合は十二割糀(大豆一〇に対し糀が十二)とした。塩分は約一〇、五%のやや甘口に決めた。その仕込んだ味噌を各社に持ち帰り自社の種味噌を加えて蔵で熟成させる。秋が深まった頃、それぞれの味噌を持ち寄り官能検査をしたところ、発酵、熟成ともに申し分なく、美味しい味噌となっていた。しかし敢えてこの時期には出荷せず、もう半年低温にて熟成させる事と全員の意見が一致した。
そしてこの春にやっと出荷できる運びに。芦屋で生まれ瀬戸内地方の五つの蔵でそだった味噌が産声をあげる時がきた。原料の選定、糀の選択、大豆の蒸し方、仕込み方法、熟成に至るまでお互いに監修し協同で醸した、瀬戸内五人衆が夢を込めた味噌である。この味噌を『瀬戸内伍郷(せとうちごごう)』と名付けた。各蔵からわずか二百kgしか生まれない夢の結は、我々の頑なな姿勢をご理解賜わり、長年に渡り応援してくださっている皆様にお届けしたい。
『瀬戸内五人衆』とは…芦屋市【六甲みそ】長谷川憲司、府中市【浅野味噌】浅野利夫、備前市【馬場商店】馬場敏彰、高松市【中屋醸造】中野宰誠、徳島市【志まや味噌】 濱野正裕 以上五人の頑固なこだわりオヤジのこと。