ただ、味噌には酒精を使っていないものもある。例えば、六甲味噌製造所では、2021年製造分から「完熟みそ」をアルコール無添加にした。無添加な分、香りや風味が味噌らしくなるが、酒精が入っていないから家庭での熟成も進む。そのため二酸化炭素を抜く工夫を容器に施しているのだ。そうなって来ると、コストもかかってくるし、価格にそれを反映せねばならない。全ての商品をそうするわけには行かないのであろう。それにスーパーなどの食品販売店では、膨張することを嫌う所も多い。
「密封された容器内で二酸化炭素が蔓延すると、味噌の風味が損なうと言って嫌う人もいる」とは、食品事情通の意見。だからもとの味噌の味のまま食せるようにと、酒精を加えて発酵を抑えるのだと教えてくれた。六甲味噌製造所の長谷川憲司社長も「今の人達は、酒精が入った味噌の味に慣れているので強い発酵臭を好まない」と指摘する。昔は、ソルビン酸カリウムをよく使い、pHを下げて発酵を抑制していたそうだが、それでは独特の匂いが付き、味噌の風味を悪くするので次第に使用しなくなり、その役目が酒精(アルコール)に移行したと説明している。
そうまとめてしまうと、今度は「完熟みそ」のように無添加のものを否定してしまいそうだが、無添加の味噌も悪くはないと理解願いたい。本来、味噌は熟成して来たら微妙なアルコールを自らが造り出すし、発酵臭はしっかりある。その分、味噌本来が持つ風味もするのだ。問題はその発酵臭に慣れるか、どうか。ただ味噌は、味噌汁然り、鍋物・煮物然り、火をかけて煮詰めるので発酵臭は消える。だから風味がいい分、無添加を求める人もいる。私がこのコラムで言いたいことは、どちらが上ではなく、酒精を発酵アルコールだといって何も考えずに排除するのだけはやめてほしいということなのだ。(2023/5/25)
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)