おみそコラムcolumn
漁港とコラボして「淡路島由良漁港産の天然鱧の味噌漬け」ができた!! ~通販限定商品として売り出す加工品のレベルとは~

 淡路島の名産は、玉葱にタコ、穴子などがある。中でも由良漁港(洲本市)で水揚げされる鱧は、グルメ垂涎の的。身がきれいなピンク色で、甘みがあって東京の料亭あたりからもひっきりなしに注文が入るという。由良漁協を構成する仲卸しのひとり「海幸丸水産」の橋本一彦さんは、いい魚しかセリ落とさないことで知られており、目利きの良さは神戸や明石の卸売市場、遠くは築地(現豊洲)にまで轟いている。橋本さんは、漁獲される多くの魚の中でも特に鱧にこだわりを持っている。「由良沖で獲れる鱧は骨が柔らかく、身が厚いので料理人から支持されているんです」との話であった。一般的に料理屋は約800gの鱧を好む。それはあまり大きいと骨切りが面倒だからだ。「大物は大味だ」なんて評する人がいるが、それは1.5~3㎏もある大きな鱧を食べたことがない証拠。実は800gのものより1.5㎏以上のものの方が肉厚で、身に甘みがあって旨い。ところが大きいと骨切りがやっかいなものだから料理人は大物鱧を選ばないだけなのだ。橋本さんが指摘する「由良沖の鱧は骨が柔らかい」なるフレーズは、そんな問題を解消する。ただ世間が大物鱧の味の良さを知らない分、骨が柔らかいとて料理屋はそれを求めない。ならば大物鱧はどこで消費されるのか?それは漁師町を始めとした淡路島の沖でである。「都会の人は、本当の味を知らない」と漁師たちは言う。「だから漁場の人ばかりが大物鱧をごちそうとして味わっているのだ」とも。
 六甲味噌製造所が、由良漁協の橋本さんと知己を得たのは今春のこと。まさにコロナ禍で世間が喘いでいた時期である。飲食店が一斉に休業してしまっては、獲ったところで新鮮な魚介類が行き先を失ってしまう。殊に高級魚は尚更で、料理屋が閉じていれば漁港からの流通が止まってしまうと困惑の表情を見せていた。特に骨切りを施されないと食せない鱧はどうなるのだろうと、今まで経験したことのないコロナ禍で漁港の人も先行き不安に陥っていた。「モノが売りにくい大変な時期は、一人でもがいていてはダメ」とアドバイスする人がおり、由良の漁港も何か手立てを打たねばと模索していた。

 普段なら鮮魚の流通しか行わない漁港側も今後は加工品分野にも進出したいと考えたようで、私が「鰆の味噌漬けはあるが、鱧の味噌漬けはあまり見かけない。夏場に沢山揚がる大物鱧を味噌漬けに加工するのも面白かろう」と提案したことにより、漁協(海幸丸水産)、味噌蔵(六甲味噌製造所)、食品販売(いただきますねっと)の三社コラボ商品づくりがスタートした。
 ターゲット(素材)は、夏場(8月)に獲れる鱧。それを骨切りし、一切れ約20gずつにカットする。そこに六甲味噌製造所の味噌漬け用みそをベースに淡路玉葱のペースト、芦屋蔵造あわせ味噌などを加えて造った味噌漬け用のオリジナル味噌を塗り込んで真空パックにして冷凍にかける。鱧は骨切りされているが故にその隙間から味噌が染み込み、程良い味になるのだ。このオリジナル味噌を開発したのは、有馬温泉の老舗旅館「御所坊」で昨年まで総料理長のポストに就いてた河上和成さんだ。彼は30年近く同旅館で勤め上げ、昨夏定年を迎えている。今は大阪府日本調理技能士会の役員をするなど関西の食文化に寄与。料理研究家として第二の人生をスタートさせた。そんな大物料理人が鱧の味噌漬け用に味噌をアレンジしているのだから口に合わないわけがない。まさにその味わいは、高級旅館の焼き物を彷彿させる。
 今回、六甲味噌製造所の通販限定商品として開発した「淡路島由良漁港産の天然鱧の味噌漬け」は、街中の料理屋ではめったに味わえないであろう1.5㎏以上の大物鱧を使用し、それを有名料理人(河上和成さん)のオリジナル味噌で漬けて商品化したもので、このホームページでしか手に入らないレアものになっている。本来なら鱧を湯引きして味噌に漬けるところを、今回はあえて骨切りした生のままの身を味噌漬けにした。こうすることで鱧本来の風味がいきるような商品にしたかったのだ。約20gの鱧の味噌漬けを三枚で一人前とし、三人前1セットの商品を作った。家庭での作り方は簡単で、冷凍保存したそれを冷蔵庫内で自然解凍し、味噌を水で少し洗ってキッチンペーパーで軽くふき取り、グリル(魚焼き器)に入れるだけ。表側を3~4分焼き、裏返して2~3分焼くと、うっすら焦げめがついて出来上がる。六甲味噌製造所の味噌を施したその味は、上品な仕上がりに。淡泊ながらもうっすらと甘みを持つ鱧の風味がうまくいかされている。
 今回「淡路島由良漁港産の天然鱧の味噌漬け」を商品化したのは、単なる加工品を造っただけではない。これまで余剰の魚でしか造らなかった加工品を、あえて刺身でも味わえるぐらいの上物を素材として使っているのが第一の魅力。おまけに島のみでしか消費されないという大物鱧を用いたために、一般的な鱧より甘みがあるものを選んだのが第二の魅力。そしてこの加工品づくりを漁場と味噌メーカーがコラボして成し遂げているのが最大の魅力であろう。いいものだけをセリ落とす漁協の仲卸し人と味噌づくりにこだわりを持つ味噌蔵が知恵を出し合い、製品化を行った事例としても注目を浴びるに違いない。猛暑時に獲れて造った鱧の味噌漬けを秋に食す-、何ともいえぬ贅沢ではなかろうか。(2020/8/6)
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)

<著者プロフィール>
曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと出版畑ばかりを歩み、1999年に独立して(有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。食に関する執筆が多く、関西の食文化をリードする存在でもある。編集の他、飲食店プロデュースやフードプランニングも行っており、今や流行している酒粕ブームは、氏が企画した酒粕プロジェクトの影響によるところが大きい。2003年にはJR三ノ宮駅やJR大阪駅構内の駅開発事業にも参画し、関西の駅ナカブームの火付け役的存在にもなっている。現在、大阪樟蔭女子大学でも「フードメディア研究」なる授業を持っている。