春は一年の始まりのような季節で、寒い冬が終わりを告げ、草木も芽吹き出すと同時に人も積極的に外に出るようになる。この時季は、昔から初ものづくし。東へ上り始める鰹しかり、桜の季節とともにうまくなる桜鯛しかり、瀬戸内へ産卵のために入って来る鰆しかりで、とにかく今年の初ものを食べようとグルメ達が躍起になるようだ。
日本は食の流行にあざとい国で、初ものを尊ぶのは、何も今に始まったことではない。江戸時代の文化年間にすでに今の初鰹のブームが始まっている。文献によれば、文化2年(1812)3月25日に入荷した日本の鰹が凄い値がついている。17本の内訳は、6本が将軍家へ、8本が市中の魚屋が仕入れ、3本が料理屋の八百膳に行っていたのだが、その値段が上がりに上がって一本2両1分~3両ぐらいだったというから、今の価格にすると、鰹一匹が10万円ぐらいになったのではなかろうか。このブームに、当時人気だった歌舞伎役者が便乗して買い出したもんだから余計にヒートアップした。歴史に残る初鰹騒ぎがそれで、目の飛び出るような価格(2両や3両)で魚が落札されていった。