冬は酒粕を使って身体を温める―、これが先人達の知恵なのだ
冬になったら粕汁をすする―、これは灘周辺、いわば阪神地区では当たり前のこと。ところが粕汁を作ったり、酒粕で調理したり、時にはざらめを載せた酒粕を火鉢や七輪で焼いておやつのように食べたりするのは、京阪神ならではの食文化で、全国的には通用しないものなのだ。最近では首都圏でも多少は酒粕が売られているようだが、少し前までは東国の人はそれで料理を作るなんて考えはほぼなかった。特に酒蔵見学に来た東京の人に、「日本酒造りの副産物として出る酒粕で粕汁を作ると旨いですよ」と話した所で彼らにはピンと来ない。それもそのはずで粕汁自体を知らないからだ。それくらい酒粕は決まった地域でのみ利用されている素材なのである。では、他地方では出て来た酒粕をどうしているかといえば、大半は漬物屋さんへ漬ける時の材料として送ったり、あげくの果ては家畜の餌に用いられる。関西以外は料理への執着が少ないといえよう。